2008年10月25日土曜日

まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか:ナシーム・ニコラス・タレブ・著、望月衛・訳

 出版時に大変話題になっていましたが、今のような時に読むと一層味わい深い。
 内容はかなり難解で、お金方面、数字方面、確率方面などに普段縁のない人にはちょっとつらいかもしれないです。
 ただし、訳者が「ヤバい経済学」の望月衛氏なので、文章自体はかなりこなれています。「わからない部分は気にしなーい」という読み方であれば完読できると思います。
 わざわざ完読できるかどうかを書くのは、なんとなく人気と完読度が一致しないジャンルの本ではないかという気がするので・・。昔、大売れしていたホーキンス博士の宇宙論の本なんてありましたね。たくさんの人が持っているけど読んだ(読めた)人は少数というベストセラーの類。

 これは数理系トレーダーであるタレブ氏の「エッセイ」(著者本人にとっては専門書の類ではない)なので、タレブ氏の率直な意見が記載されています。たとえば・・・


”だいたいはファイナンスの研究者なのだが、自分の脳に行動を合わせる代わりに、自分の行動に脳を合わせるたぐいの人たちがいる。この手の人たちは、無意識のうちに時間をさかのぼって都合のいい統計データを探しだし、自分のとった行動を正当化する。私の業界にもそういう人たちがいて、統計を使ったインチキでオプションを売るという自分の行動を正当化し、自分で自分にだまされている。(p.256)"


 うーん。CDS・・・。今読むと一層趣深いですなぁ・・。
 著者のタレブ氏の「統計・確率」の専門家としての意見が、以前読んだ禅の本に書いてあったことにとても似ている気がします。「今をあるがままに受けとめる」という感覚と言えばいいのでしょうか・・。
 金融危機に「ふりまわされなければいけない気」になっている人におすすめかもしれません。マスコミが騒いでいても、今影響がないなら、それで良いではありませんか。影響を受けるときはいやでも受けるんですから。
 
ちなみに著者タレブ氏のご尊顔は以下のWebで拝見できます。(本には著者近影はありません。)

Nassim Nicholas Taleb's Home Page
著者にメールする場合は、再下段の注意事項を良く読み、緊急の場合のみ40word未満で簡潔に記載し送りましょう。しかし、この注意事項の欄、面白い!


関連書
ちょっとブログ: ヤバい経済学 スティーヴン・D・レヴィット、スティーヴン・J・ダブナー 著、望月衛 訳

ちょっとブログ: 数字に弱いあなたの驚くほど危険な生活:ゲルト ギーゲレンツァー Gerd Gigerenzer・著、吉田 利子・訳


まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのかまぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか
望月 衛

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2008年10月20日月曜日

都合が悪けりゃルールを変えろ:時価会計一部凍結

日経では以下のように報じられていますが、金融危機なので時価会計のルールを変えてしまうようです。
日米欧、時価会計一部凍結へ 金融危機封じへ非常手段
さすが、「理屈の国」の人たちというべきでしょうか・・。都合が悪くなったらルール変更。
日本ではどうかといいますと、企業会計基準委員会が容認したという報道を見たのですが、10月17日の時点では金融危機対応に関する報道についてという中で

"一部報道で、企業会計基準委員会で時価会計一部凍結や金融商品の時価会計の適用の緩和を決定したかのような記事が出されていますが、憶測記事であります。"

と記載されています。まだ決まっていないようです。
「独自ルール」が長かった(今もですが・・)日本がどう対応するのか、興味深いところです。

2008年10月13日月曜日

国債が無効になったことがある国、日本

 マスコミからは金融危機の報道が聞こえてきます。でも、金融業界とマスコミ以外では「それがどうした」という反応も多いのではないでしょうか?
 報道されている他の国のように株が暴落したから抗議行動に出るということもないし・・。
 この落ち着きっぷりは何から来るのだろう?と考えて「そもそも日本の人は相場を信用していないのでは」と思いあたりました。
 バブル崩壊前でも、株や債券に消極的な人は多かったと思います。親、祖父母、さらにその前の世代から「株、債権に手を出すもんじゃない」と言われている家もあるのではないかと思います。
 今ふたたび脚光を浴びている世界大恐慌(1929年)もありましたし、そのうえ債権には「戦争で国債が紙切れになった」という記憶をお持ちの世代がいるわけで、そりゃぁ信用できないかも・・。
 国債と言っても「大日本帝国」が発行したものですが、下記の国会図書館の資料のように無効もあり、敗戦後のインフレで事実上の紙切れと化したものもあり。どちらにしても「紙きれ化」したわけです。

賜金国庫債券ヲ無効トスルノ件 昭和21年2月26日 閣議決定

 かく言う私も「大日本帝国と書いてあったって戦争に負ければ紙切れになるんだから!」と「相場を信用してはいかん!」とさんざん聞かされて育った世代です。
 債権ではCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)なんて商品があって貸し倒れリスク回避をしているのかと思いきや、それが原因でドミノ倒しのようになっているし・・。
 でも人によっては今を「絶好の買い場」と見て動いているでしょう。どう世の中を見るか、難しいですね。