2008年3月2日日曜日

数字に弱いあなたの驚くほど危険な生活:ゲルト ギーゲレンツァー Gerd Gigerenzer・著、吉田 利子・訳

 「数字に弱いあなたの」という邦題だと「数学は得意」「理系」の人を読者対象から除いてしまうような気がしてもったいない。
 不確実性をもとにした意思決定の研究をしている著者が、確率を「どう理解するか」「どう表現するか」で意思決定が左右されることを解説した本です。
 「数字オンチ」によって、間違った意思決定が病気や裁判など人生の重大な場面で専門家、一般人を問わず起こっているのではないかと問題提起しています。
 著者は、この意思決定の誤りを防ぐために、確率をパーセントや分数ではなく、自然頻度(例:この病気になるのは100人のうち1人です)で表現することを推奨しています。たしかに例を見ていくとその方がはるかに理解しやすい。
 文中「ベイズの法則」というものが何度も出てきます。ベイズの法則とはなんぞや?と検索してみたところ、「ベイズ理論」「ベイズの定理」とも呼ばれているようです。
 ベイズ神父のお顔も知ることができる2003年のCNET JAPANの記事をご紹介。
グーグル、インテル、MSが注目するベイズ理論
 1980年代まで日陰の学問だったようですが、ここにきて返り咲いているようです。


 「数字オンチ」について著者は次のように表現しています。以下引用。
 
 自分にかかわるリスクの対する無知と、そのリスクを正しく伝えないこと、これは数字オンチの二つの側面である。第三の側面は、「統計数字から正しい結論を引き出す」という問題に関係する。この第三のタイプの数字オンチは、あるリスクについて的外れな考え方をして間違った結論を引き出す。的外れな考え方は、リスクが伝えられた場合にのみ可能になる。(P.53)


 うーむ。どの側面でも困ったことです。医療や裁判でその分野の専門家が「数字オンチ」であったために、専門家から間違った情報を伝えられるという事例がいくつも記載されています。恐ろしいのは伝えられた側も「数字オンチ」であると誰も間違いに気付かず事態が進行していってしまうということです。
 以前紹介した「がんから始まる」でも(実際にはがんなのに)「がんではないですか」と質問して「それはない」と回答されて早期発見のチャンスを逃したことが記載されていましたが、そういうことかと納得がいきました。
 しかし、では自分が専門家の立場だったらどうかというと難しい。たとえば検査結果で陰性だったとして「1000人に1人はこの検査で陰性と出ても病気のこともあります。しかし、あなたがその1人かどうかは別な検査をしないとわかりません。どうしますか?」と陰性の人全部に聞いて回るのも現実的には困難そうだし・・。
 ただ、自分が患者であった場合に、「1000人に1人は陰性でもこの病気なのだからさらに調べたい」と判断したら、調べてもらえる体制は欲しいです。「病気じゃないからダメ」と門前払いされそうですが・・。
 どちらにしても著者は「確実性という幻」に惑わされないように、繰り返し書いています。「偽陽性」「特異度」という言葉を知ることができただけでも読んだ甲斐がありました。
 しかし、2003年初版のこの本の新品が、現時点で手に入らないようです。しかも中古が定価より高くなっているし。確実性の幻を見ていました。
 ハードカバーなので図書館にあるかもしれませんから、興味のある向きは図書館の捜索もお忘れなく。

数字に弱いあなたの驚くほど危険な生活―病院や裁判で統計にだまされないために数字に弱いあなたの驚くほど危険な生活―病院や裁判で統計にだまされないために
Gerd Gigerenzer 吉田 利子

早川書房 2003-09
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関連リンク:ちょっとブログ: がんから始まる 岸本 葉子・著

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