もともと著者の文体から伝わる「まじめさ」が好きでエッセイを何冊か読んでいました。
何年か前、たまたま外出先で聞こえてきたラジオ番組に著者の岸本さんが出演されていて、闘病記というか、がんの体験記を出版されたことを知りました。
本屋でさがし、立ち読みして数ページで引きこまれてすぐに買って帰りました。ごくごく平易かつ冷静な文体で、病気発覚から手術、その後の生活までを書いています。
「悲劇の闘病記」と違うのは、著者が手術をし、病巣をとりのぞき、社会生活に復帰していることです。仕事を休んだのも1か月程度。
この本で印象的だったのは「あと5年生きられないかもしれませんが、平均寿命以上まで生きるかもしれません」という状態での思考の堂々めぐりです。5年と40年じゃ計画の立て方は違います。非常に違います。
「未来なんてわからない」というのは誰にとっても同じですが、がんの場合のように数値を使って「告知」された場合の堂々めぐりは切実です。
「病気なんか関係ない」「闘病記は悲しくなるから読みたくない」という人にこそおすすめしたい本です。
読み返すたびに「そんなばかな」と心の中で叫んでしまう、医療の限界を感じる一節を引用します。
「何か、悪い病気ということはないでしょうか、がんだとか」
と問うと、
「いえ、それならば、血液検査に現れるはずです」
とのことだった。
もしも、私に早期発見のチャンスがあったとしたら、このときだったのかもしれない。
(ハードカバー 版P.14)
※この本では著者が「癌」の字を用いず、「がん」と記載しているので、上記もその表記に合わせました。
ハードカバー
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